フライング・キッズ 56
虹ガ見エタラ
フライング・キッズ
フライング・キッズ2(期間限定後悔)
さヴぁい部!! ~フライング・キッズ・番外編~
フライング・キッズ
フライング・キッズ
フライング・キッズ(仮)
56
着席した俺たちをぐるりと見渡し、そいつは口を開いた。
「みなさん……………、
……………お久しぶりです………、
城 戸 秀 一 で す !!」
「…………………………、いやいやいやいや!!」
「なんですか、秋山さん?」
「お久しぶりじゃねーよ! たかが二日ぶりだよ! ってか、ただの連休明けだよ! それまでみんなしてべったり一緒だったじゃんか!!」
俺は全力でツッコんでいた。
この、ひとり起立したちび眼鏡のクラスメイト、城戸秀一くんに!
が、何故だろう、とくに物怖じせず、妙に落ち着いた様子で、彼は俺を見据える。
「はっはっは…、相変わらず素敵に楽しく明るいテンションですね、秋山さん」
「……え、あ、いや…、城戸…、なんか、オマエ、…キャラ変わってない?」
「ふふふ、ご冗談を…。……全く、惚れ惚れです、…はふぅ」
「………はふー、じゃねーよ」
違った。
確かに落ち着いてはいるが、なんかブレてる、ヒトとして。…ったく、なんなんだ、コイツは。
「まぁまぁ、ミツル先ぱい」
俺の目の前に座る一年生女子、桃井奈々子が、にぃッと微笑んだ。
「しゅーちゃんは~、張り切ってるンだよ~、ね~っ!」
…あ、八重歯、見えた。
「桃井さん…、今日も素敵です!」
「そ、そぉ? あ、ありがと…」
おい、若干苦笑いに変わっちゃったぞ…?
が、しかし、城戸は続けてまくし立てる!
「素晴らしい! 実に、スバラシイですよ、桃井さんのその笑顔! さぁ、みなさんも是非、見習って! ほら!!」
「おかしい!絶対オカシイよ!今日の城戸!」
俺は堪らず叫んでいた。 ほら、じゃねーよ…!
…つぅか、城戸くんったらさぁ、もっと、なんつーの、こう…、なよなよして、おどおどしてて、決してヒトに意見を述べるような率先出来るタイプじゃなかったよね!?
「あに言ってんスか、ミツルさん」
ふと、俺の隣りの席の長髪男子がだらしな~く口を挟む。
「あぁ、ほら、あれだ、ミツルさん、知らないンだ。…寝てたから」
浅倉士郎だ。
彼はその長~い脚を組み、ぎっしぎっしと椅子を揺らしてる。
「な、なんだとぅ!?」
「だって、そうでしょ? 会議、全然参加してなかったじゃねぇッスか」
「…た、確かに」
俺は堅ッ苦しい話し合いなんて柄じゃない。 元々はただの雑用係り、つまりはほんの軽~いお手伝いの気持ちで参加したのだった。 だから、会議の半分以上は…、寝ていた!
「じゃ、あれッスね、今日、なんでこのメンバーで集まったのかも知らないんスね?」
な、なんだよ、浅倉ぁ~。 オマエ、俺を年上だと気付いて敬う様になったンじゃなかったのか!? その、若干上からの態度は何だ!
だが、しかし…、ワケが分からないのは事実だ。 ここは正直に下手になろう。 俺もダブり、つまりは留年生として、世渡りはそこそこ経験済みだし。
「うん、知らない。 何なのこれ? ねぇ、今日、何の集まり?」
「それはですねぇ、秋山先輩」
それには斜向かいの女子、一年生の神埼まひるが答えてくれた。
「アタシたちは先日の合宿で結成された、新組織なのです」
「新…組織…、だぁ~!?」
確かに、先日までのゴールデンウィークで行われた、生徒会役員による合宿。 正式役員はもちろん、俺をはじめ、つーか、俺自身はついでのつもりだったが、ここにいるメンバーも全員参加した。 今期の活動方針やら各部予算振り分けやら、なんか色々会議してた…、気がする…、俺、八割方、遊んでたけど…、って言うか…、
「おい!こら!浅倉ぁ!そーいやオマエも一緒に遊んでたよね!?」
「あー、楽しかったッスね~、ミツルさん。肝試しとか、意外と、何気に、うん」
「…アンタら、何してたのよ、大事な集まりだったでしょうが…」
なんか、部屋の隅っこにいつの間にか居た体育教師の三島センセーに厭きれられてしまったが…、まぁ、いいとして…。
「浅倉、じゃ、なんでオマエは知ってンの!?」
「いや、オレは全部出てたもん、会議」
「なっ…、おま…、…け、かったりぃ、やってられっかって…、早々にフけるような素振りをしたはずじゃ…! くっそぅ! だましたな! えぇい! まひるちゃん、こんなのいつ決まったの!?」
「はい。秋山先輩が不参加だった最終日の会議に結成されました」
「さ、最終日…って…」
「あー、あれね、ミツルくん、キミ、朝から煮込んでたわね、私と一緒に」
「み、みしまセンセー…」
「秋山さん、あのとき何を…? と、言うか、今回の合宿で一番の思い出は、何ですか?」
ややあって、城戸の問いに、俺は答えた。
「カレー…」
『ですよね~』
「違う! 二日目が肝心なんだ! 二日目の煮込み具合でその辛味と旨味が…ッ」
『…はいはい』
いや、みんなしてそんなににっこり微笑まなくていい!
「でも、美味しかったよね~、ミツル先輩のカレー」
「えー! なんか甘すぎじゃなかったかぁ、あれ~?」
「あぁ、たぶん、別鍋だなー、それ。 ミツルくん専用鍋」
「どおりで! ふたつも鍋があったワケですね! まひる的にはどっちも好きでしたよ!」
「ふふふ、秋山さんは甘党…、と」
やめろ、オマエら! そんなとこで盛り上がるな! 早く本題に行け! …あと、城戸、メモるな!!
「…さてさて、みなさん、そろそろ…、いいですかぁ?」
ぱんぱんっと、手を鳴らし、城戸が仕切り直す。
「本日、みなさんに集まってもらったのは他でもありません。そう、いよいよ、このメンバーによる足高の新たな試み…」
こほん、と、咳払いひとつ、そして城戸は、こう、告げた。
「第二生徒会、発足です!!」
………は?
え?
なに?
なんだって…?
…って、
「だいにせいとかい…ッッッ!?!?」
「その通りです、秋山さん」
「その通りじゃねーよ! なんだよそりゃぁ!?」
「いいですか、秋山さん。 我が足ヶ丘高校、通称足高は、その自由な校風の元、生徒たちの自主性を促す教育方針と伝統を築いてきました。 そのため、委員会などは必要最低限を除き、存在がありません。 ですので、生徒会が学校内雑務その多くを担って来たのが事実です。 ですが、やはり人員不足による問題も多発しております。 そこで、今期、新たなる試みとして我々は、従来の生徒会をふたつに分け、三年生を中心とした第一生徒会と、そしてぼくら二年生を中心とした第二生徒会を、ここに発足にするに至ったのです」
「単に委員会を増やせばいいんじゃ…」
「このぬるま湯に浸かりに浸かった生徒たちが今さら好き好んで委員会なんぞに大人しく付くとお思いですか、秋山さん?」
「う…、そ、そうか…。…で、察するに、城戸、オマエの立ち位置と役職は…?」
「はい…、ぼくが第二生徒会長、城戸秀一です!」
「なんとなく分かったけど…、まさか二度目の自己紹介ッ!?」
驚愕の俺、だが、勢いは止まらない…!
「ちなみに、他のみなさんは…ッ」
と、そこで、順に他のヤツらが席を立つ!
「第二ふくかいちょー、桃井奈々子なのだッ!」
「浅倉士郎!第二会計だ!よろしくな!」
「第二書記の、神埼まひるです!」
「………え、俺は…?」
「あ、秋山さんは、雑務長です」
「ざつむちょうッ!?」
「いえ、あの、本来はぼくがやるって言ったんですけど…ね」
城戸がやっと城戸らしさを見せる。 ほんの少し。 ていうか、城戸らしさって何だ? 俺にしか分からんだろうが、まぁ、いいや。
と、
「キミにはそれで十分じゃん、ね、ミツルくん? むしろまだこの場に居られることに感謝すべきでしょ~?」
「…ちょ、ま…、って、いうか、三島センセーこそ、何故ここに!?」
「? 私は顧問だから。 第二生徒会の顧問、だ」
「えー…、うっそ~ん…」
いやいやいやいや、じゃぁ、俺、もういっそ、クビでいいよ!
俺にやる気ないの分かってるだろ、みんな!
どーしてみんな俺を巻き込むの!?
「でもさぁ、ミツルさん…」
隣りの浅倉がなんか耳打ちして来る。
…そもそもコイツが生徒会に関わろうとしてるのが、なんか腑に落ちないンだが!
「……あのさ、なんか、生徒会やっとくと、内申点、めっちゃ良いらしいッスよ?」
「………がんばります」
あぁ、俺って、ダメっダメだぁ……。
所詮、ダブりの俺ですから。
…つづくッ。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
吉。
※引っ越しますた。(笑)
引き続きお付き合いいただけるようでしたら、
メールにてお知らせくださいませ。
引っ越し先のURLをお送りいたします☆
utakuzira@yahoo.co.jp
吉。
55
県立足ヶ丘高校・生徒会メンバーはただ今、会議の真っ最中のはずだ。
…が、
「んー…、なんつーか、こう、王道っすよね…」
ぐつぐつと煮えたぎる巨大な鍋を前にして、俺はすでに汗だくツユだく状態だ。
「そそそそ…。だって、ほら、大人数だし、なんたって“合宿”なんだし。ぽくてイイっしょ?…え、ウソ?なに?ミツルくんは嫌いだった?」
「ふふふ、まさか…。センセー、こいつが嫌いだなんてヤツは…、そりゃ男子じゃねってもんです…よ?」
そう、俺の表情は今、真剣そのものなのである。自分で言うのもなんだけど。
そんな俺の隣りでは、このたび引率でやって来た体育女教師・三島…が、もうひとつの別の大鍋へ、
「…ぃよぉいッしょぉ…ッ!!」
豪勢に切り分けられたたくさんの野菜を雪崩の如くぶち込む。
「……ふ~ぅ、ってかさぁ、キミは会議に参加しなくてイイのかなーぁ?ん?ん?」
“豪快なオネーさんは好きですか?”で、足高生にはお馴染みの三島センセー。養護教諭兼任で保健室の相談役として、男子だけではなく女子からもワリと人気が高いお方だ。
「…うん、まぁ、たぶん、あれっすよ、その、いいんじゃねっすか…」
だがしかし、三島センセーの声に生返事の俺。なぜなら今、大事なミッションにチャレンジ中なのだ、そう…、灰汁取りと言う名の、な! …よしッ!今だ!いくぜッ!…うわっ、うわっ、熱ぃ!熱ぃ!跳ねた!汁、跳ねた!熱、熱、熱ぅッ!え、つか、なに!? なに!? ちょー“たぎって”ンすけど!?
…煮え立ってンすけどーぉッ!?
「そ~れ、燃えろ燃えろ~、ふーふーふーぅ!」
「…ちょ、まっ…、待って!センセー、待って!火、火、火ッ!…強い、強いよッ!」
「あはははは…、ミツルくん、面白いね、キミ」
…あ、アンタ、ふーふーするなら、自分の鍋にしなさいよ!ふーふー、はッ!!
*
ついに足高生徒会合宿が始まった。
通い慣れた校舎を離れ、我々は人里離れた山の中にいた。
つーか、朝も早から集合し、たどり着いたその先はここ、地元ではわりと有名なキャンプ場、“ふれあいの森”だ。
シーズン時には家族連れで超満員、オフ時にも我々のような学校関係(主に林間学校)やら、なんやら企業の新人研修やらと、フツーに利用団体は多いのだとか。
コテージやバンガローのような個別の宿泊施設だけでなく、屋内レクリエーション用の体育館や、図書館、ミニステージなども、ある。
とは言え、遊びに来たワケではございません。
先程もお伝えした通り、主要メンバーは今頃真面目に会議の最中なのである。(ちなみに会議室も完備されている。まるで公民館のよう)
「…つぅか俺、正式に役員なワケじゃないっすよ」
イイ匂いだ。それに美味しそうな色。
「あれ、そうなのー?じゃぁ、なんで来たのよー?」
三島センセーはキャンピングチェアに深々と腰を落とし、ふーぅふーぅ、している。…鍋にではなく、たぶんキレイに磨げたのであろう、ピンと立てた十本の指の先、自身の爪に。
「ぬー…ぅ、なんでっすかねー、ま、ノリじゃないっすかねー」
来ちゃダメでしたか?なぁんてこと言わないですぜ、俺は。城戸じゃあるまいし、ね。
なんで来た?、と訊かれれば、この生徒会合宿には確かにノリであるのだが、何故、夕食準備に俺がいるのかと訊かれれば、やって来た理由なら、ある。
それは…。
「つうさ…、浅倉とかさー、桃井とかさー、アイツら全然、生徒会ってキャラじゃないのにねー」
と、三島センセー。続けて、ふっふーっ、よし!ぱーぺき!っと、ご満悦のご様子。
「…ミツルくん、キミもだけど、…世間様はGWよ、ずぃーだぼーぅなのよ? こーんなとこまでわざわざノリで来られるもんじゃないっしょー?」
確かに。
でも、いいんだ。
来てしまったからにはしょーがない。
それにいくら連休だからって、予定もないし、家にひとりで居るのもつまらないし、ね。
まぁ、実際のところ午前中の会議なんて、俺は一時間も持たなかったけど。
なんか耐えらンなくて、早々に買い出し部隊を率先し、出て来ちまったんだよなぁ。 (ちなみに、センセーが車出そうか?って言ってくれたけど、…飛びました。自力で。麓まで。そんで桃井が付き合ってくれたのは助かったけど、そのせいで俺は一服が出来ませんでした。…ドちくしょう。)
って、あれ…?
なんか、変だな。
俺、ひとりで居ても大丈夫だったはずじゃ…、今までずっと…、
おっと!
くそぅ!ダメだ!ダメだ!…無心にならなくては!
せっかくここまで大事に大事に見守って来たンだ。
決して鍋の底を焦がさぬよう、弱火でじっくり、かき混ぜる手も止めてはならない!
…と、三島センセーが立ちあがり近づいてくる。
「あーもう、なにをそんなに真剣になってんのよぅ?…たかがカレーごときで。」
「た…、たかが、だと…ぅッ!?」
ふいに、わなわなと震えだす、俺の両腕。ちなみに左右それぞれの鍋をかき混ぜながら。
「え、…な、なに?なに?…ミツルくん、どったのよ!?」
「…か、かかか、カレーを、なめるな~~~ッッッ!!!!」
あぁ…、柄にもなく大声を出したから、どもっちまったぜ。
「は~ぁ?…ちょ、ねぇ、キミ、大丈夫…? すっごい汗だく、だかんね?」
三島センセーが訝しげな目を向けてくる。
が、…んなこたぁ、分かってる。出来れば今すぐそこの渓流に飛びこみたい、さ。
だがしかし、センセーは俺の気も知らずに言いやがった。
「…てゆうか、なんでわざわざお鍋二つに分けたのー?メンドくなーい?」
ぐ…っ、と、奥歯を噛みしめた、俺。
「…ばっ、バカヤロウッ!!」
…沈黙。
ぐつぐつ、ぐつぐつ、煮え立つ、大鍋たち。
「……!?」
言葉を失った、三島センセー。
…しまった。
いくらなんでもそれはマズいだろ、俺。
相手、教員だぜ…?
だが、もはや止められない…!
「…俺は、俺は、俺は…、
…辛いカレーが食べられないンだよッ!!」
嗚呼…。
グッバイ、俺の色々なアレ。
そしてハローハロー、…もはやアレな、俺。
…つづくッ!?
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
吉。
2-2・5 「そして、全滅へ…」
余談である。
なぁに、ただの、あるある、だ。
読み飛ばすのも、鼻で笑うも貴方の自由だ。
ふりーぃだーぁむッ!
…それは、とある超国民的RPG(ロールプレイングゲーム)で誰もが一度は味わったであろう、懐かしき日の思い出だ。
我々は冒険をしに、とある洞窟の中へとやって来た。
ボスを倒し、宝を手にし、目的は果たせた。
もう、ここに用は無い。
さぁ、帰ろう。
しかし…、だ。
ここは、カビ臭く薄暗く、おどろおどろしい洞窟の最深部。
我々はここまでやって来た長い道のりを、今再び引き返さねばならない。
これがまた一苦労である。
この洞窟の中の怪物は意外と手強い。…集団で火とか吹くなよッ、全体的にッ!
しかも、薬草(回復アイテム)も、MP(不思議なチカラを数値化したもの)も、ボスとの戦闘で、ほとんど使用してしまった…。
だが、死ぬわけにはいかない。
だって死んだら、せっかく貯まったお金が半分になってしまうぢゃないか!
…冒険とは、無事に町に戻りセーブをするまでが、冒険だ。
どうする…?
ふふふ…。
大丈夫。
心配はご無用。
こんなこともあろうかと思って、わずかに残しておいたのさ!
ま、まさか!?
そう、ほとんど使用してしまったように見せておいて、実はちゃっかり計算して残しておいたんだぜ!
MP残り…、8!
ちょうどじゃないか!
よし、頼むぜ!
おう、行くぜ、脱出呪文発動!
ぱらりらりらり~ッ♪
“ ゆちのけ は ルー〇 を となえた ! ”
ひゅー、
ごづぬんッ!!
“ ぬせたも たち は てんじょう に あたま を ぶつけた! ”
ああぁぁーーッッ!!
しまったぁぁ~~ッッ!!
間違えた~ッッッ!!!
洞窟脱出は『リ〇ミ〇』だよ!
『〇ーラ』は瞬間移動だよ!
どっちも使用MPは、8だよッ!
どーすんだよッ、これでMP、まぢでゼロになっちゃったよッ!!
……。
……俺たちの本当の、冒険が、今、はじまる…!!
逃げるッ!
逃げるッ!
逃げるッ!
“ ぬせたも たち は にげだした! ”
“ しかし まわりこまれて しまった! ”
まぁ、当然ながら…。
“ おぉっ! ぬせたも たち よ! しんでしまうとは なさけない!”
「ふふふ…、いいなぁ、松田さん。素敵なお顔。きっとイイ夢を見てるんですね~」
「…うわっ、まぢホントばかだし。…つぅか、キモ…」
「…ぅ~ん…か、かいしん の いちげき が あぁぁ~~~……ッ!!」
…つづく?
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
※期間限定後悔です。
※ごめんなさい。
吉。
1
およそ十分くらいが経っただろうか。
ぼくの背後で、そのヒトはこう言った。
「……で? …飛ぶの? 飛ばないの?」
恐る恐る、ぼくは振り返る。
と、
そのセリフとは裏腹に、そのヒトはこちらを気にもとめず、ブ厚い週刊漫画雑誌らしきものにずっと視線を落したまま、、、咥え煙草でぷかぷかと吹かしているではないか。 さらにぼくは大きなあくびをひとつ見せつけられる。
そのほんの一瞬にだけ、目と目が合った気がした。
だがすぐにまた、そのヒトの視線は真下に落とされた。
…そして。
結局、ぼくは飛べなかった。
“ホント、いくじなしだね”
ぼくはあの日の彼女の言葉を思い出していた。
…少しだけ時間をさかのぼってみる。
Q、死んだらどうなるのだろう?
ぼくが満足する答えをくれたヒトは、今のところ、いない。
当たり前だ。
誰も死んだことはないのだから。
ことあるごとに母親は、口癖のように、ぼくに言う。
“お前はおじいちゃんの生まれ変わりなんだよ” と。
おじいちゃん、とは、母親の父親で、つまりは言葉のまんま、ぼくの祖父のことであるが、母いわく、顔も性格も、いらいらすると左手の親指を噛むという癖まで、ぼくはまるで祖父の生き写しなんだと。
母は、父との結婚後、八年ものあいだ子宝に恵まれなかったというが、祖父が持病で他界するとすぐにぼくを妊娠したのだそうだ。 命日からきっかり二ヶ月後に、ぼくは発見されたらしい。
しかし、残念ながら、ぼくには祖父の記憶がない。
これはぼくと祖父との思い出がないという意味ではなく、、、まぁ事実出会うことは不可能だったので、あるわけがないのだが、、、例えば戦後の貧しい幼少時代の暮らしだとか、目まぐるしい高度経済成長の世に翻弄されたであろう青年期だとか、その後ささやかながらも平凡と平穏の果てに名も知らぬ幼い親族にまで囲まれて迎えた最後の最期の瞬間だとか、、、つまり、前世は祖父であったと証明できる、確固たる記憶がない、ということだ。
それでも、もしもそうだと仮定したのならば、ぼくはきっと神に記憶を消されてから転生されたのであろう。
そうでなきゃ、世の中、大変なことになる。
誰もが前世を持っているはずだ。
例えば、もしも前世が織田信長だというヤツがいたならば、この近未来21世紀にして平成ジャポンに、天下統一の旗を掲げ、武力行使で大虐殺、間違いなくクーデターが起こるであろう。 だけど、出来るものならほんの少し、ぼくはそのカリスマ性に触れてみたい気もするが。
…話を戻そう。
それなのに母はぼくに対し、母自身と祖父の思い出話をよく口にする。
“おじいちゃんもね、ひまわりが大好きだったのよ~。背の高~いひまわり畑を見つけると、すぐに中までふらふら行っちゃうんだから。…お母さん、よく、かくれんぼしてもらったのよ~”
これは確かぼくが小学三年のとき、母の田舎で母に聞かされた話だ。 数ある母の話のうち、ほんの豆粒ひとつではあるが、母はどうしてもぼくの中の実父を目覚めさせたいようだった。
このときは別に、自分より背の高いひまわりが珍しくて、しかもひまわり畑なんて初めて見たものだから、ぼくは思わず父親に車を路肩へ止めさせてまでして、慌てて駆け寄ってしまったのだ。 それだけのことだった。 真夏の暑さにうなだれる、小さくて大きな太陽たちに囲まれて、ぼくの胸はドキドキしっぱなしだった。
そう、あのときは。
でも、今現在のぼくは、母には大変申し訳ないのだが、…実はそこまで好きなワケじゃないんだ、ひまわりって。
ただ珍しかっただけなのだ。本当に。
なのに母はくりかえす。
“やっぱり、お前はおじいちゃんの生まれ変わりなんだよ” と。
Q、死んだらどうなるんだろう?
解答者その一、実母。
A、誰しもみんな、新しい命へと、生まれ変わるのよ。
つまり母は輪廻転生を信じている。
だから、次も人間になりたいのなら、悪いことはするんじゃないよ、と、母は言っていた。
でもぼくは信じない。
先のとおり、祖父の記憶などあるワケ無いし、そもそも、良いことをすれば天国、悪いことをしたら地獄、なんてさんざん聞かされたであろう安直な子供だましを真に受けるつもりは、毛頭ない。
嘘をついたら地獄でエンマさまに舌を抜かれるぞ、と言って、あの頃ぼくを震え上がらせたいたぼくの父は、ぼくが中学に上がるころ、ぼくと母を置いて若い女と消えた。母は彼が消えるまでその事実を受け入れられずにいた。 さらにぼくがそれを知らされたのは、ぼくが高校の志望先を考え始めたころだった。 ずっと海外でお仕事してるのよ、と、聞かされていた。
でも別に、ぼくはそれを責めるつもりもない。
生きてれば良いことも悪いこともする。しかもそれは大半が気紛れと成り行きであると言っていいだろう。ぼくはそれこそが、人間が人間としての、人間であることの証明だと考える。
だいたい、先の転生論、そのご都合教育が、生まれたての赤ん坊の産毛の根っこ隅々まで行き渡ってさえいれば、それこそこの世に国境も戦争も差別もいじめもなかっただろう。
ふいに頭を言葉がよぎった。
宝ものに裏切られるって、どんな気持ちなのかな?
子宝、とはよく言ったものだ。
お母さん、ごめんなさい。
でも、大丈夫。
これで母は心おきなく、あの男と一緒になれるのだから。
…そう、ぼくはもう十分すぎるほど、その世界への片道切符を持て余していたのだ。
そんなことを考えている間に、ほら、もう、たどり着いてしまった。
ぼくは階段を上りきっていた。
立ち入り禁止の札が掛けられた、錆びついた色の扉を前にする。
このときのぼくは、たぶん笑っていたに違いない。
ぼくは岩田先輩が作ったカギをこっそり持ち出していたのだ。
新しい世界入り口は、暗闇で出来た、小さな洞窟だった。
その穴に、ぼくは手にしたものをするりと挿入し、迷いもせず右に回す。
そいつはかちゃりと鳴いた。
その世界は簡単にぼくを受け入れてくれるだろう。
ぼくはぎぃぃぃと、錆びつく重い音を立てて、それを開いた。
眩しかった。
ぼくがその世界へ受け入れてもらうための、第一の洗礼だった。
慣れるまでしばらく目を開けることが出来なかった。
思ったよりも強い風が吹きつける。ぼくは何度も目をこらした。
青空。あおぞら。アオゾラ。
大事なことのような気がして、ぼくは三回ほど言ってみた。
その先には今までのぼくでは決して届くことはないと思っていた、世界があるはずだ。
ぼくは近づく。足元がふらついていたが、お構いなしだ。
幸い、そこには背の高い金網フェンスなんてものはなかった。そもそも立ち入り禁止の言わば聖域なのだし。 建物の構造上出来た、わずかな段差があるだけだ。
ぼくはひとつ息を飲み、意を決して、そこへ立ち上がる。 ついこのあいだ体験せざるを得なかった卒業証書授与式での壇上に上がる瞬間よりも、不思議と今は緊張していなかった。 …そうだ、今日はあいつらが居ないからだ。
そしてぼくは下界を覗いてみる。
…見ろよ、体育なんて下らないことしてる生徒たちが、まるでゴミのよ…、
……。
…どうしよう。
…高い。
高すぎる…。
…お、おかしいな。
たかだか建物四階分の高さなのに…。
ぼくは足が竦む。と、同時に震えだす。
黙れ!
言うことを聞かないと、切り落としちゃうぞ!
ぼくは叫んだ。誰にも理解し得ない言語で。
しかし、右も左も、そいつらは悲しいまでにぼくの一部分だ。
まぎれもなく、ぼくだ。 だからこそ、ぼくはぼくに逆らえない。
行け!
せっかくここまで来たんだ!
簡単だ!
きっと痛みは一瞬だ!
あとは“無”だ!
これ以上わずらわしいことは、もう何も考えなくてもいいんだぞッ!?
……。
悲しいまでに、ぼくはぼくだった。
そのとき登校してから五回目の予鈴が鳴り響く。
ぼくはもう、段差の上から進むことも戻ることも出来ずにいた。
しかし、ふいに、
…ん? なにか、来る!?
そんな気がして、ぼくは“空”を見上げた。
…えっ?
まぢかよ…!?
…人間がいた。
って、人、間、だよ、な…?
いつの間にそこに現われたのかは分からないのだけど、東の空に、ぽつりとひとつの人影が“浮いて”いた。
てくてく、てくてく、と、そんな擬音が聞こえてきそうなほど、それはゆっくりと、そいつのペースで、近づいて来る。
ぼくがそのヒトに初めて出会った瞬間だった。このときは、ぼく側からの一方的な認識であったのだが。
これといって特徴のない、ごくフツーの身体つきの、ぼくと同じこの学校の生徒。
男子生徒だ。その証拠にウチの学ランを着ている。 と、いうことは。 もうひとつ、この瞬間に分かったことがある。 そのヒトは年上、つまり上級生である、という確かな事実だ。 なぜなら、この学校男子の制服は、新入生であるぼくらの代からブレザーに変わったのだから。
そんな彼の学ランの着こなしは、前はボタン全開で、中に着ている白シャツが見え、それはズボンに入れられておらず、股間に掛かる感じでだらしない。
そして片手にはぼくら学生ご用達、コンビニ特有のビニール袋をぶら下げている。なんだか色々入っているみたいで、その袋は重そうに見えた。 空いているもう片方の手で、携帯電話に夢中になっている。
だんだん彼が近づいて来た。
両眼に掛かるほど、うざったそうな長い前髪、しかしこれといって特徴のない顔立ち。
が、それが分かったところで、ぼくの頭上のクエスチョン・マークはいまだに消えていない。
そもそも。
なぜ彼は“空中を歩いている”のだ!?
…まるで目には見えない透明の廊下が、彼の足元には続いているようだった。
…あ。
そんなことを考えていたら、彼はぼくの目の前、そして真横を、ごくごくフツーに通り過ぎた。
…って、…え?
ぼくのことは無視なのか!?
…ふ、振り返っていいものか。
ぼくは恐る恐る首を後ろに回…、
と、
「あぁぁああぁぁぁッ!!」
ッ!?
なんだ!?
突然、そのヒトがぼくの背後で大声を上げた。
ぼくはびっくりだ。
「…たっ、…タバコ、忘れたーーーーッ!!!」
そう彼は叫び直すと、再びぼくの真横をダッシュで通り過ぎる。
ぼくに気付いているのか、いないのか、、、それ、まさに風の如く、びゅ~~~んッと駆け抜け去ってしまった。
…というか、“空を、走って、行ったッ”!?
光の彼方に彼の姿はもう、無かった。
…一体、なんだというのだろう、あのヒトは…???
およそ十分くらいが経っただろうか。
ぼくは再び、そのヒトと出会うことになる。
…つづく。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
※良い子は決してマネをしないでください。
吉。
46
病み上がりの身体には正直しんどい。
もう五月は目の前だった。
登校時にはちょっとした足腰の鍛錬となる、このゆるく長いながい坂道。まるでアーチのような桜並木はすっかり新緑に身を包み、我ら県立足ヶ丘高校の生徒ら誰もを皆、別け隔てることなく優しく迎えてくれた。 …ってか、もう、いいじゃないか、早く衣替えしちゃおうよ。学ラン、きついンだぜ?…やさしく、って、そりゃ登りきったあとの風にそよぐ木々の音は心地よいけどさ、汗かいてるンだよ、こっちはさ。誰だよ、こんな山ン中にガッコ建てた奴ぁ…。ぶり返すっての。
ぶつぶつと、もしかしたら声に出ていたかもしれない、そんなアブナイ俺、実はあの日の夜以来、高熱を出し、三日間ほど学校を欠席していたのだった。…意外とナイーブな俺である。
本日ひさびさのご登校、ってか、今日はもう午後授業しか残ってないけど。
ひょろろろろー、っと、なんか鳥らしき鳴き声が、俺の頭の真上を通り過ぎて行く。
あぁ、今日も青空が高いなあ。
…つづく。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
吉。
43・5
小さなふたつのかげ。
暗がりの砂浜、向こうから、駆け寄って来る。
なにか、声がした。
どうやら、男の子と女の子みたいだ。
ふたりは俺たちのいる所へたどり着くまでに何回か、持っていたものを落としては立ち止まり、拾い上げ、また走りながらやって来た。
桃井が立ちあがり、迎える。
そして、
「おねぇちゃんたちにも、あげるー」
女の子が差しのべた小さな両手には、いっぱいのお菓子。
「あららら、いいのー?」
「ママがねー、みんなでねー、なかよくってー」
「ホントー?ふふふふ、ありがとー」
桃井はその手のひらの上から飴玉やチョコをいくつか取ると、空いている片方の手でとなりの男の子の頭を撫でた。もう一度、ありがとねっ、と、言って笑った。
いこっ、と声を上げ、男の子が駆け出し、女の子もそれにつづく。
「元気だねぇ」
桃井は子供たちをしばらく見守る。 …桃井、なんとなく姐御に似てきた?
それはいいとして、
「…運が、良かったのかもな、俺ら…」
つぶやく俺のとなりで、桃井はまた座り直す。
「そぉねぇ」
目の前でぱちぱちッと微かに木炭の燃える音がした。
そのわずかな明かりの向こうに、ふたつの小さなかげは、消えて行ったみたいだ。
…つづく。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
吉。
1
ぎゃーん!!!!ががッ、ががッ、ががッ、ががッ、がががッ…!!!!!
「…っ!? …ちッ、へったくそ…」
突然の爆音攻撃が始まり、危うく俺は真っ逆さまで墜落しそうになった。慌てて体勢を立て直す。まるで酸素が足りなくなった素潜りみたいに、がむしゃらにあたりをかき出した。ちくしょー、せっかく眠りかけてたのに。
「うるせー!」「窓を閉めんか―!」「高橋せんぱーい!」
ついでに下からは色んな声が飛び交った。校舎にも校庭にも結構残っている奴らが居たみたいだ。…そうか、ここは視聴覚室の真上だったんだな。そんでもって新歓が近いから“けいおん”のみなさん、張り切ってるんだな。…しかし、まぁ、なんすかね、高橋さん、来てたんすね、元軽音楽部長。アンタ先月卒業してたよね、高橋さん、で、毎年やるんすね、…新入生歓迎ライブでメタリカを…。
4月5日。うららかな陽射し。まずまずの青空。微風。なんとまぁ、心地よい。首まで湯船に浸かっているみたいだ。ここは地上よりおよそ30メートル。通学路に続く満開の桜並木も、深緑色したプールも、校庭を走る女子運動部員のたわわに揺れてる感じのそれらも、全部ぜーんぶ見渡せる。放課後になってからずっと、俺はここに “浮かんで” いた。
今日は始業式だった。俺は “また” 2年生になった。そう、“また”である。2回目の2年生である。つまりそれは世間でいう、留年生なのである。去年の1年間は、まぁ、その、何をしていたかというと、… “浮いて” いた。2つの意味で。そして今年も、いや、これからもたぶんずっと、その2つが付きまとうんだろうな…。決して淡い期待など微塵もなく。
それから新しいクラス発表と…、まわりの連中はみんな、誰それとまた一緒だねーとか、別々ぅーとか、あいつキラーイとか、やったー下ちゃんセンセ―じゃーんとか、…まぁお約束なんだろうけど、俺も去年まではそんな感じだったと思うし。 …あぁ、でも俺は逆に、今日この日が『クラス替えの印象』として一生残るんだろうなぁ。あんなに客観的に見ることできたの、約10回目にして初めてだったな。自分が何組かだけ確認したら、あとはもうずっとどうでもよかったもんな。
そしてホームルームでは新しい担任のご挨拶と、あとは簡単な進路希望調査の提出。しかしこいつが俺をなんとも憂鬱なキモチにさせ、おかげで今の今まで我を忘れて “浮かび” 惚けていたというわけで…、、、まぁ、 “浮いて” たらなーんか、ぽかぽかしてたし実際どうでもよくなって居眠りしかけてたんだよな。 うん。そんで、けいおんのみなさんに叩き起こされました、と。 よし。
いつの間にか彼らは、ちゃんと窓を閉めて演奏していた。もううるさいとは思わないが、音は漏れ、ズシンズシンと重低音が校舎を震わせている。俺はまたなんとなく憂鬱に似たキモチになってきていた。空中に横たわって、ぼんやりとあたりを見下ろした。
ここは平凡田舎の県立足ヶ丘高校だ。決して丘じゃなくて、ひとつ山ん中にある。これが毎朝の登校時にはなかなかしんどい。まわりは畑だらけ。みかんの木がよくある。ちなみに登下校中に、みかんをもぎって食べ、もし見つかると停学になる。余談だが。
校舎は、上から見ればカタカナのエの字型をしていて、各学年の教室棟は北側と南側に別れており、俺がいるのは真ん中の棒の真上あたり。つまりそこが職員室や図書室のある連絡棟で、彼らけいおん部の練習場所でもある多目的視聴覚室も、ここの3階に位置している。…ちなみに2階、ド真下が職員室なんですよね。なんとも寛大な学び舎すなぁ。
エの字の左上、つまりは北西に位置する所には体育館。そこからは吹奏楽部がぷぁーぷぁー音を鳴らし出してる。 ん? “すいそう”とか呼んでおくべきか?
ま、それはそれとして、だ。季節は新しく、皆が皆、青春を謳歌している!そんな感じか? ちなみに運動部の描写があんまりないのは、俺に運動への興味がまったくないからです(笑) …あー、なんか、そう、掛け、声と、か、聞こ、えるよ? サッカー部か、やきゅう部、の…。グラウンドは、真北に、ある、よ。 あ~、あのたわわに揺れるコ、もう走ってねーかなー??
はぷっしゅッ!!
くしゃみが出た。少し寒い気がする。まだ正午前で目一杯陽に当たっているとはいえ、ここはなんの風避けもない空中だ。寒いはずだ。4月の頭はまだ冬だ。俺にとって。ちなみに俺は花粉症など信じていない。あー、寒いだけ、寒いだけ。風邪気味かな~。
…さ、そろそろ下りるか。謳歌するべき俺の青春は、今日もここからじゃ見つからないみたいだ。そりゃそうだよ、たかだか “宙に浮ける” くらいで。空を飛ぶのとはワケが違うんだよ。今時サーカスにだって入れやしない。…確かに最近いなくなったよな。俺が子供のころにはもっといたような気がするんだけどな。
俺は、東側にある生徒昇降口を、なるべく隅っこを目指して落下することに決めた。まずはそのポイント上空まで移動しなくてはならない。 …………、しばらく待ってみたけれど、うまい具合に流れに乗れない。むしろ逆風な気がする。 …………、さらに俺は考える。うーっむ。寝そべって、バタ足クロールスタイルか?立ったまま吹雪に向かい行く、登山者の形か?うむむむ…。
この、“下りる”って感じ。なんだか全然馴染めない。あ、結局さ、雪の中を大股で歩くみたいな、下から見たら「何アイツ?キモッ!」って言われんばかりでたどり着きましたよ。そうそう、落下速度だけどもね、速くても遅くてもダメ。速すぎると、怖い。どこで重力が掛かり出すのか、いや、重力は感じてるんだけれどもさ、なんというか、急に負荷が増すんだ。下手したら、即死だよ。アスファルトに衝突して。即死ならまだいい。大怪我負っても脈ありのほうが大惨事だ。逆に遅すぎるのは、なんと言うか、これすごく恥ずかしい。こう、俺が、仁王立ちのまま、ゆっく~り、だんだん下がってきてみなさいな。「何オマエ、降臨してんの、神気どり?」っていうふうに見られた時のアナタのその目が怖いっ!羞恥死できるわ!
…ま、安全なんだけどね。重力を確かに取り戻せる感じがあるしさ。
※俺、ただいまゆっく~り降下中。
「あ、誰アレ?飛んでんし」「すげー、マジで浮いてる浮いてる」「知ってる、あの留年したって、え、知らないの?」「ねぇねぇ、高橋センパイOKだったってぇ??」「うちのおばーちゃんも昔飛べたよー!」「いーなー、飛べるの」
なんだか色々言っている。今ちょうど昇降口から出てきた女子生徒たちだった。どうやら同級生らしい。新2年生ということだな。だが、それよりも俺は全神経を集中し、最後の瞬間に備える。そうしなければ着陸失敗で、この高さだと最悪、尻もちをついてしまう。そう、彼女たちの前で…!!
すとっ。
まるで本当にそんな擬音がしたかのように鮮やかに、着地は無事成功した。硬く黒ずんだアスファルトに白いスニーカーで確かめてみる。うん。問題なし。ちゃんとした重力がある。
よし、と顔を上げると、あの女子たちはもう向こうのほうへだらだら歩いて帰っていった。桜並木がざわざわと花びらを撒き散らしていく中を。「お花見したいねー」「いいね、いいねー」とか聞こえた気がした。駆け抜けてく風が冷たいのが分かった。どうやら地上も寒くなってきたみたいだ。
さて、と。しっかり歩いて帰るとしましょう。この2本足で。大地を踏みしめながら。腹も減ったし。
あの女子グループと俺の帰り道は逆方向なので、なんとなく安心した。校門を出てからの通学路は左右に別れ、どちらの方向にも100メートルくらいまでは桜並木が続く。それを抜ければ今度は坂道が続くようになっていた。下校時には下り坂となる。俺は歩きだした。ここからでもバンド演奏が聞こえていた。
へっ、なんだかますます滅入ってきたぜ。 …べ、別に期待してたわけじゃな…、(自粛) …うーん。そもそも完全に前傾姿勢だったしなー。自分の足元しか見てなかったもんな。格好悪いよなー。はっ、そーいえばあん時、手は、この両手は、どうしてたっけ?前に突き出してた?後ろで組んでた?耐ショックのため頭抱えてた?祈りのポーズしちゃってた? …わ、わからん。思い出せん。まさか着地姿勢でこんなに悩むとは、、、。
「あ、あの、先輩」
「…そう、腹痛っぽく、前屈み、3、2、1、バンジー的ならどうだったか…」
「すみません、あ、秋山先輩」
「…あまつさえ、背中に広げ、キーン!な感じになっていたとしたら!…」
「秋山先輩ってば、ちょっ、と、ちょといいですか!」
「ん?悪ぃ、だれ?」
俺はやっと気付いてみた。現実でもあるよね、こーいうの。ひとりごとしちゃってる時ってさ。もう3回くらいあったよ。うち2回は確信犯だけど。
そいつは俺の目の前に、ずいっと出てきた。…ちっこい奴。ぴょこっと出てきた、に訂正かもな。俺だってたいして背が高いわけではないが、俺よりも頭ひとつ分は低い。さらによく見たところ顔立ちも体格も全体的に幼い。…あ、残念ながら野郎でございますよ。
「お、同じクラス、の城戸です。き、城戸秀一。先輩で、すよね?さっき飛んでたの、は」
「え、…あ、うん。いや…、飛んでないっすよ、…浮かんでただ…」俺が答え終わる前に城戸は大声を上げた。
「~~~同じですよ!すごいです!すごいじゃないですか!!飛べるんですね!?飛べるんですよね!?」
…う~む、困ったな。勝手にテンションお高くなっていやがる。 城戸は興奮していた。というか、どうやら俺の後を走って追っかけてきたみたいで、俺も、んー、なーんか迫ってくる奴いるなーって分かってたんだけどね。それでその上がりきった心拍数のままの彼なワケだ。ちっこい鼻がぴーぴーいってる。こいつも風邪気味なんだろうか?
「あのさ、城戸…くん?根本的に違うのね。俺、ただ浮くことしかできないしね。うん、てか、ちょっと落ち着け。鼻かむか?」俺はまだ使ってないポケットティッシュをひとつ丸々渡してやる。
はぁはぁ、ぴーぴー、はぁはぁ、ぴーぴー、城戸は大変そうだ。いったい学校のどっから走って来たのだろう。ここだってまだ校門からそんなに離れてない所だし。
ずずずびーっと気持ちのいい音を立てて、城戸が鼻をかんでいる。桜がはらはらと舞って散る。風も少し穏やかさを取り戻したみたいだ。
「ありがとうございます。もう大丈夫です。」
城戸はやっと落ち着いたみたいだ。あー、腹減ったなー、今、何時なんだろ?
「ぼく、憧れてたんですよねぇ。ホント、感激です。子供のころ一度見たことがあったんですけど、あんなに近くで見たの初めてで。あ、ぼく、あの時、体育館で明日の垂れ幕飾ってたんですよ、天井の舞台裏にいまして。」
まぁ、春、春だもんな…、世の中は。校舎からかすかに漏れるバンド演奏には、いつの間にか女の子の歌声が混ざっていた。聴いたことがある、昔流行ったバンドの歌だ。確かボーカルだった女性は、今現在ママさんタレントとして活躍している。
「先輩もこっちなんですか?せっかくですのでご一緒してもよろしいですか?」
俺がどうでもよくなって歩きだすと、城戸はそのままとなりについてきた。こいつ、仕事サボって来たんじゃないのか?だとしたら生徒会だろ?いいのか?ま、雑用だろな、じゃ、いいんだろうな。
「この学校にいるらしいっていうのは聴いてたんですけどね、いや、まさか先輩がそうでしたか。知りませんでしたよ。しかも同じクラスになるなんて、これから楽しくなりそうですねぇ」
…うん、俺、お前のこと全然知らないんだけどね。本当にいるんだね、ひとのことおいて勝手に喋るやつって。地面に落ちた無数の桜の花びらは、もうすでに色んな人に踏みつけられて、こびり付いたガムみたいに汚いだけだった。それでも次から次へと舞い落ちてくる。こんなにうすっぺらいのに、重力には勝てないんだな。
「秋山先輩、知ってましたか?」
…うん、いや、だから、俺はお前のこと全然知らないし。
「先輩と同じような人、ここに入ってくるらしいですよ」
…そうか。明日は入学式だもんな。
…つづく。
※この作品はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
吉。
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